小林伴子 フラメンコ・スペイン舞踊教室・高田馬場駅から徒歩1分
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「さざなみのようなカスタニュエラ」小林伴子インタビュー
Vol.06(1998年10月12日発行より)
 
   
菜畑

今年10月15日と16日にコンサートが開かれますが今回のコンサートは「カスタニュエラ、カスタニュエラ・・」と題名がついています。そのカスタネットについて伺おうと思います。

     
小林

カスタネットは、とてもシンプルでプリミティブな楽器です。よく知られていると同時にフラメンコのカスタネットのことは、まだまだ知られていないように思います。 芸事は何のジャンルでも時間を経て初めてわかる部分があります。

フラメンコというと自然の踊りというイメージが皆さんのなかにあるらしくて、うちのお稽古場に来る方も「すぐ出来る」と思っている場合が多いんですね。極端な例ですが、「エル・フラメンコ」(新宿のフラメンコライブのレストラン)で素晴らしい芸達者な踊り手さんが歌って踊っているのを見て「これなら私もできるかもしれない」と言って入って来られた方がいました。

1週間に1回の個人レッスンを2、3回やったら辞めてしまいましたが、手も足も出なかったんです。みんながカスタネットを鳴らして踊ったり、足音を出しているのを見るとかんたんに出来そうですよね。実際に始めてみて皆さんが驚くのは、自分の足が人の足みたいになってギクシャクして動けないことです。それでも頑張ってやっていくうちに3ヶ月ぐらいたつとなんとかみんなについて動けるようにはなってくる。

けっこう、この劇的変化が楽しいものらしく皆さん熱心にお稽古をするようになります。でもその段階で見えるのはその段階のことで、トレーニングを続けることでだんだんフラメンコの奥の深さが分かって来るんですね。 カスタネットの場合も、どんな状態でもいいからガチャガチャ音が出るという段階から技術が上達し同時にリズム感や耳が鍛錬されていくと、今まで聞こえていなかった音が聞こえて来る様になります。フラメンコの音楽に対してもより聞こえるものや感じる事が多くなって来るのです。

     
菜畑

スペイン留学時代からフラメンコの中でカスタネットが重要な役割をもつ楽器として特にお稽古していたのですか。

     
小林

初めはコンセルバトリオ(スペイン王立舞踊演劇高等芸術学院)の試験を受けるためにクラシコをやらなければいけなかったからなんです。クラシコ・エスパニョール(スペイン古典舞踊)にはカスタネットがつきもので、カスタネット無しには考えられない踊りのジャンルです。そのためにカスタネット付きの曲をたくさん踊ることになりました。フラメンコは足音を出して手拍子を叩く事が主で、男性はほとんどカスタネットを持って踊りません。女性にはカスタネットを持って踊る踊りがいろいろありあすが・・・。クラシコエスパニョールとはフラメンコに限らずスペイン各地の民族音楽を題材にクラシックの音楽家が作曲した曲と、それに振り付けられた踊りのことです。
私は日本に帰ってきてからリズムトレーニングのためにドラムを習いに行ったりして、打楽器にすごく興味をもっていました。その影響で稽古の仕方も音符を考えたり乗りを考えたりして習得していく方法をとり入れて教えています。体でコンパス(フラメンコのリズムパターン)をとりながらカスタネットを叩いていくという内容のレッスンなのですが・・・。それが毎回の授業にあるわけです。1日3クラスあれば3回、私自身、人よりも圧倒的にたくさん練習する機会があるわけです。これはサパテアード(足音)でもそうですけれど。

     
菜畑

それはスタジオを始めた時からずっと毎日ですか。

     
小林

はい、そうです。

     
菜畑 毎日基礎をやるということですね。
     
小林 フラメンコはもともとメソッドがありませんから教える手段に舞踊的な基礎としてクラシコ・エスパニョールを利用する場合が多いのですが、ただその場合カスタネットを打つという技術と組み合わせて練習するのは体のポジションとステップが中心となっています。フラメンコでカスタネットを弾く場合はクラシコを踊る時のそれとは当然違うと思うので、私の授業ではコンパスとカスタネットの関係が中心になっています。
今回のコンサートのチラシのなかで「友達がさざなみのような音色」と言ったということを書きましたが、マヌエラ・バルガスさん(60年代から70年代のスター舞踊家)の踊りのカスタネット演奏録音・CDにとても影響を受けました。シギリージャの録音なんですが、テンペラメント(激しさ、活力)があると同時に弱音の部分があり、しみじみ心に沁みました。さざなみのような音を初めて実際に聞いて、とても感激しました。
「自分の気持ちのひだが指先からこぼれてくるような表現」ができたらなあ・・・と。私の理想です。そこに向かって精進したいなと思っています。今回どこまで出来るか分かりませんが、ひとつのチャレンジとして「カスタニュエラ・カスタニュエラ」の公演を企画しました。
     
菜畑 公演のパンフレットの序文を読んで、弱音の素晴らしさについて書かれていますが、カスタネットのひとつの世界を見せてくれるんじゃないかとても楽しみなんです。
   
井上 弱音というのがどんな感じになるのか興味がわきますね。
   
小林 それを聞いてとても嬉しいのですが、菜畑さんや井上さんはある程度フラメンコやカスタネットの知識があるでしょう。こういうものがカスタネットで、弾いて踊ってリズムを出すという。でも入学してくる人の中には「カスタネットを持ってきてください。」と言うと小学校で使った赤と青のカスタネットを持ってくる人がいます。
     
菜畑
井上
なるほど私達もその口かもしれません。
     
小林 だからこれを読んでも、なかなか私の言いたい事を分かってもらえないかもしれないと恐れていたんですよ。
     
菜畑 でも芸の奥深さというものが伝わってきます。なにをやっても強いだけじゃない弱いところが必ず全体の中で重要なんだと。
     
小林 マティス(濃淡、階調をつけること)が大切ですよね。どこまでそれが表現できるか分かりませんけど、とにかくそういう可能性をあまりみなさんに知られていないのではないかと思うのです。
     
井上 私達もカスタネットがどれくらい表現力があるのかあまり知らないですしね。
     
小林 今度踊る曲は4曲ありますが、そのうちの2曲をカスタネットを使って踊ります。カスタネットはとてもシンプルな打楽器ですが、打楽器はプリミティーブな分だけ人の感性に直接うったえかける強さがあると思います。
   

井上

 

世界中で祭りや儀式の場面に太鼓(打楽器)がよく使われていて、だんだん興が乗って陶酔の境地に入っていくということがありますね。太鼓のリズムには不思議な力がありますね。
   
菜畑 インド、パキスタンの太鼓も即興性があっていいですね。あのリズムが心地よい。もっとも原始的で心に響いていく。根本的なリズムというのでしょうか。
   
小林 やはり人間が気持ちよくなれるというのは自然の節理があるんですよね。だから自然なことというのは決していいかげんなことではなくて、ちゃんと法則があってその法則が体を動かしています。
「心臓に不整脈が出たら病気でしょ。」ってよく生徒に言うんです。足音が乱れたり、パルマ(手拍子)が乱れたら気持ち悪くて当然です。
   
菜畑 それでは10月のコンサートを楽しみにしています。ありがとうございました。
 
(1998年8月31日菜畑宅にて)
 
 
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