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「アランフェスの誘惑」 佐伯泰英
Vol.05(1998年4月23日発行より)
 

ロドリーゴの『アランフェス協奏曲』で有名なアランフェスに時折立ち寄るレストランがある。
カサ・パブロ(Almibar通り42 TEL:891-1451)といって、古いカスティリアの料理店だ。マドリードから南下すること五十キロのアランフェスはスペイン王室ゆかりの地、タホ川の流れの縁に濃い緑が茂り、豊かな実りを約束してくれる。わたしをこの店に連れていったのは、闘牛写真家のヘスス・ロドリゲスだった。もう二十数年もむかしのことになる。がっしりした造りの酒場に入るとヘレスの香りが漂い、壁一面に闘牛士の写真や古いポスターが飾られてあった。ヘススはビールを飲みながら、闘牛見物の着飾った婦人方や旦那衆が出入りする擦りガラスの向こうのレストランを顎でさした。

「おまえがな、出生したらパブロの料理を食べにこい。あれがな、本物の料理というもんだ。」最初の招待客はこのおれだぞとも付け加えた。以来、わたしにはパブロの親父の料理を食べることに誘惑されてきた。もちろん日本の高級レストランのようなばかげた値段がするわけではない。だがわたしにとってすりガラスの向こうは、旦那階級(セニョリート)の世界だった。入るには勇気がいった。スペインが豊かになり、マドリードからの若い家族づれがカサ・パブロに出入りするようになった八十年代、わたしは初めて憧れのテーブルについた。もちろん古き友も一緒だった。いまでもそのとき注文したメニューをおぼえている。

グリーンと白のアスパラガスのサラダ。マスのムニエル。ヤマウズラ(ペルディス)のパブロ風。そして生クリームをかけたいちご。すべてがアランフェスの平野で採れたものばかり。ああ、これがスペイン料理なのかと感動した。そのあと、わたしたちはホロ酔い気分で優雅な(エレガンテ)という言葉一色に染まったオルテガ・カノの闘牛を見た。

胃の中でペルディスが踊り、目の前で角と布が舞っていた。あんな至福な午後はめったになるもんじゃない・・・・・だがあと一、二度あっても悪くない。神さま、ウナ・オポルトゥニダー!(もう一度!)
アランフェスにお立ち寄りの節は、ぜひともご賞味あれ。味は保証する。


photo:Y.SAEKI
 
 
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