もう18年くらい前になるでしょうか、小林さんが、スペインへ2回目のフラメンコ留学に出発される時、以前多摩美の学生時代小林さんも教えていらした児童館の絵画教室の先生がたと一緒に当時は国際線は羽田からでしたが、見送りにいったことをなつかしく思い出します。 今と違ってスペインがずいぶん遠い時代でしたから、現地にもちろんあてがあるとはいえ、たった一人で出発するところに立ち会ったわけですが、小林さんの覚悟と勇気にすっかり感心してしまいました。さて、初めの頃のフラメンコ留学はどんなレッスンを受けていたのですか?専門的内容はわからないので、レッスンの印象でもよいのですが。
当然ですが、レッスンは先生によって教え方が違います。フラメンコはまだメソッドが完成されていませんから、それぞれの先生の踊りのスタイルをまねることで技術や表現を習うことになります。
本場スペインのレッスンで、習うときの心構えみたいなものはありましたか?
スペインへ行って初めて個人レッスンを受けたのですが、先生が本気で教えてくれるよう、自分に関心を持ってもらえるよう次のレッスンまで、その日習ったことを何度も繰り返し、一生懸命稽古しました。 私のスペインでの最初の先生トマスは、前にもお話ししたように大変厳しい人でした。先生が公演のためしばらくお休みになったのですが、そのときちょうど私は体調をくずして自習ができませんでした。 先生が戻られて最初のレッスンの時、当時スペイン語で唯一知っていた病気の単語が「レスフリアード・風邪」という言葉だったので「風邪で稽古ができなかった。」と言いましたら、「風邪は稽古でなおる。」と言われてしまいました。
一人一人の生徒の特質や資質を引き出すような稽古はされるのですか?
個人レッスンの場合は当然そうなります。これはどんなジャンルでも同じだと思いますが、誉めて良いところをのばす先生と不完全な場所を修正して資質をのばす先生のタイプがあります。スペイン舞踊を習ったベティー先生は前者で、トマス先生は後者でした。
フラメンコのレッスンはどのような稽古場で練習していたのですか?
日本ではプロの舞踊家が、自分の稽古場をもって練習したり、生徒にレッスンしたりしてますが、スペインでは稽古場をもっている人は少ないのです。現役の舞踊家が公演のないとき、貸しスタジオを借りて教室を開設するわけです。以前アントニオ・ガデスが主演した映画「カルメン」ではカルメン役のラウラ・デル・ソルがアモール・デ・ディオスというスタジオでレッスンを受けている時スカウトされた設定になっていましたが、実際にマドリッドのアモール・デ・ディオスは、たくさんのフラメンコの先生がクラスを開いている、フラメンコの世界では有名な稽古場です。私も多くの時間をそこで稽古しました。
私など体感できないことですが、それを聞くとスペインの稽古場は、いかにも固そうですね。 さて、今は以前に比べ、スペインへフラメンコ留学する人が非常に多くなったようですが、どう思われますか?
本場へ行って直にスペインの空気に触れるのは、とても良い事だと思います。ただ、フラメンコは技術の習得にとても時間のかかるものですから、スペインへ行ったから、すぐに上達するというものではありません。
前回の会報では「小林さんのフラメンコ誕生」を取材しましたが、今回はスペインでの留学生活のところをもう少し皆さんもお聞きになりたいと思いますのでそのところから伺いたいと思います。
スペインでは、最初はスペイン人の家庭にお世話になりました。2年間で3件位引っ越しをして、タブラオで仕事をするようになってからは、アパートで1人住まいをしました。スペインへ平気で留学したのも、初めての海外旅行で出掛けて行ったスペインでお世話になった方が、とても上手に私の旅を助けて下さったからだと思います。 知人の知人という本当に今思うと、先方にしてみたら迷惑な話だったでしょうに、「ここのタブラオがいい」と良いアドバイスをしてくれたり、「あそこを見ていらっしゃい」と観光バスに乗せてくれたり。べったりついて歩くのでなく、私に負担にならないようにご自分も構えない、本当にゆきとどいた心遣いをして下さいました。おかげで、一人ですっかりスペインを歩いたような気になって、何の不安も感じずにポッと留学してしまいました。
昨年、私の家にも15歳のアメリカの男の子がホームステイしましたが、あまり構えすぎて正直言って疲れました。でも、彼の方がもっと疲れたんじゃないかしら。今思うと、良くしてあげようと考えすぎていたと思います。
スペインの気候はどんなですか?
スペインも広いので一概には言えません。中央のマドリッドは、盛岡と同じくらいの緯度ですが、地中海性気候のせいで、暑さ寒さの感覚は東京ととても良く似た気候です。ただ、とても空気が乾燥しているので、夏も気温の割りには過ごしやすいです。お風呂なんかは入らなくても、肌はいつもさらっとしています。
シャワーを浴びる習慣っていうのはどうなんですか?
普通の人はあまりお風呂には入らず、時々シャワーを浴びる程度だと思います。スペイン人に比べたら、日本人はずいぶんとお風呂好きだと思います。 でも私がスペインで教えられたシャワーの習慣というのもあるんですよ。というのは、仲間の踊り手が出演前シャワーを浴びて出勤してくるのに気がついたんです。スペインで仕事というと長期に渡ることが多くなります。衣装は毎日、長い時は何ヶ月にもわたって同じものを着るということになります。
当然あんまり洗濯出来ません。それで衣装に匂いをなるべく付けないようシャワーを浴びて、デオドラントをつけ、それから着る、というくらい、とても気をつかっていることを知りました。私もそうするようになりました。
スペインにいるあいだ素敵な男性に会われたと思いますが・・・。なんだか突撃レポーターみたいかしら。(笑い)
もちろん、素敵だなと胸をときめかした人は何人もいましたよ、私も石ではありません。けれど、スペイン人は17〜8才までにはもうカップルが出来上がっていて皆カップル単位で行動するから、私の年齢だと新しいボーイフレンドを獲得するためには、必然的に誰かのボーイフレンドを横取りすることになってしまいます。 だから、パーティーなどに一人で出かけると、カップルの女性からあからさまに敵対心を持たれたりします。おまけにスペイン男性、とくに南の人は女性へのお世辞が挨拶代わりの情熱家ですから、「まじめなおつきあい」から始まるのは、なかなかむずかしいようです。言葉も名詞が全部、女性系、男性系に分かれている国ですものね。結婚している男性でも、独身と称して女性を「月よ星よ、蝶よ花よ」と口説く場合もよくあるようで、私も一週間ぐらいで嘘に気づいてさよならをした事があります。 性に関する意識は、一口でスペインはと言えないくらい個人差があります。当然フラメンコの世界も同じです。カトリックをまじめに実践して、25才を過ぎて「私はバージンよ」と胸をはって言う女性もいれば、堕胎の経験を話す女性もいる。フラメンコはアンダルシアでは老若男女、皆の親しむ民族芸能ですが、残念なことにスペインでもアンダルシアから出れば、芸能界の感覚に近づき、外の人の見る目も日本で日本人が芸能人を見る目と同じようです。
結婚しているのに口説くということは、自分の気持ちに正直っていうことでしょうか?
悪意はないのですね。
イタリアの印象を菜畑さんが「街中が背の高い建物に取り囲まれていて、建物に彫られた聖人に見下ろされている。そういう世界に生活していると実感したわ。」と話していましたがスペインもそんな感じでしょうか?
小林伴子フラメンコ・スペイン舞踊教室 ラ・ダンサ
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